【背景と目的】

 相互に関連する人間社会と自然生態系の関係を持続可能なものとするために、不確かだけれども起こりうる未来の社会像を描き、人間社会と生態系の関係の変化を予測する”シナリオ分析”が、様々な研究者によってなされています。しかし、まだない未来のシナリオを、意思決定者である政策関係者や一般の方々にどんな形で伝えれば、理解や意思決定がしやすくなるかという点においては、まだ課題が残っています。

 これに対し本研究は、将来社会のシナリオを、その社会で暮らす人々の物語の形で伝えるという手法に着目し、シナリオの物語化とその効果の検証を試みます。

【題材】

 本研究では、人間社会と生態系の関わりについての将来シナリオとして、環境省の推進費(S15)による研究プロジェクト「社会・生態系システムの統合化による自然資本・生態系サービスの予測評価(PANCES)」にて開発された、4つの将来社会像を題材としました。

 PANCESプロジェクトの4つのシナリオは、日本社会において①と②の方向性がどちらになるか、その組み合わせによって作られたものです。

 ①現在の都市部や市街地に今後人口がさらに集中するか、それとも今後は郊外や田舎により分散していくか

 ②国内の自然資本(自然そのものや、自然が作り出した資源やサービス)をより積極的に活用していくか、それとも人工資本(人間が作り出した人工のモノやサービス)や国外の自然資本をより積極的に活用していくか

この組み合わせによって、4つの異なる将来社会像「自然資本・コンパクト型社会」「自然資本・分散型社会」「人工資本・コンパクト型社会」「人工資本・分散型社会」が検討され、それぞれの社会で起こりうる変化や全体的なイメージが描かれています。

【手順】

シナリオで描かれた4つの社会で暮らす家族の、小説風の物語を作成します。物語の主人公は高校生とし、4つのシナリオで共通の登場人物とストーリー展開の物語の中に、4つの社会のあり方の違いを描きます。物語や社会の理解を助けるイラストも作成し、4つの社会について物語と同じ情報を含む箇条書きの説明文も比較対象として作成します。

物語と説明文ができたら、その効果を検証するオンラインアンケート調査を実施します。数千のサンプルの半分には物語を、半分には説明文を読んでもらい、どちらを読んだ方がイメージがしやすく、自分ごとと捉えられたか、また自分にとって望ましい社会を選びやすかったかなどを尋ね、物語で将来シナリオを示すことの効果を分析します。

※本研究は、2019年度科学研究費補助金(若手研究)『定量的分析と物語手法を融合した、社会-生態システムの将来シナリオ共有手法の構築(19K20494)』の助成を受け実施したものです。